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   「QMSを経営に活かしたいあなたに贈る」 QMS委員会

     「2015年度新体制が発足しました!」


                      2015年 7月31日発行 第68号

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ CIAJ ━
≪ 第68号 目次 ≫

 ・はじめに
 ・2015年度QMS委員会体制のご紹介
 ・QMS委員会総会特別講演のご報告
 ・QMSサロン報告「ISO/DIS 9001:2014の体系的解釈とその応用を考える」
 ・ISO 9001関連の最新動向
 ・TL 9000コーナー「TL 9000セミナー報告」
 ・知識活用型企業への道「QMSにおける知的資産運用への取り組み」
 ・編集後記

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●はじめに
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2015年度 QMS委員会委員長の米山 正彦です。
どうぞよろしくお願い致します。

今年も暑い夏がやってきました。夏の夜と言えば,花火ですかね。全国各地で
花火大会が行なわれており,既に参加された方や,これから参加される方も多
いのではないでしょうか。

私の家の近くでも,第101回を迎える歴史ある足利花火大会が8月に開催される
予定ですので,参加したいと思っております。

QMS委員会では,先月の総会で皆様から2015年度計画・体制をご承認いただ
きまして活動を開始致しました。

今年度,QMS委員会を取り巻く状況やISO 9001:2015年改正などから,ISOの
本質を今一度考える良い機会との想いから,『QMSを学ぶ』を運営方針とし
ました。

具体的な施策としては,教育体系の中に「QKMアクティブラーニング」を新設
し,講義形式には拘らない目的志向の教育として,“学びの場”を提供してい
きたいと思っています。

花火大会のような,会員の皆様に感動を与える場になるよう取組みますので,
皆様のご参加をお願い致します。

本年度もQMS委員会へのご支援をよろしくお願い致します。

それでは,メルマガ68号をお届け致します。


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●2015年度QMS委員会体制のご紹介
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6月19日のQMS委員会総会でご承認いただきました新体制をご紹介致します。

委員長  沖電気工業   米山 正彦

副委員長 日本電気    野村 肇

運営委員 アンリツ    佐藤 勇治(普及分科会副主査)
  〃  沖電気工業   青柳 礼子(研究分科会主査)
  〃  サンコーシヤ  大貫 信夫
  〃  日本電気    飯田 政良(TL 9000WG チェア)
  〃  日本電気    斉藤 仁
  〃  日立製作所   相澤 滋 (研究分科会副主査/品質マネジメント
                   システム規格国内委員会委員)
  〃  富士通     橋本 辰憲
  〃  富士通     馬渡 登 (TL 9000WG バイスチェア)

特別委員 (元)ソニー   山本 正

会計監事 三菱電機    岩崎 信広(普及分科会主査)


ISO 9001:2015年改正を直前に控え各企業が対応を加速しつつある中,今年度
は自主的なQMSの再設計を支援すべく情報発信を行ってまいります。

QMS委員会ではさらなる委員会活動の飛躍に向けて,運営委員会,分科会の
役員の世代交代を図っておりますが,様々な場をとおして会員の皆様から忌憚
のないご意見をいただくと伴に,是非,委員会活動に積極的な参加をお願い申
し上げます。


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●QMS委員会総会特別講演のご報告
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6月19日に開催しました総会特別講演では,スリーエムジャパン株式会社
チーフ・プロセス・オフィサ(CPO)兼コーポレート・プロセス・イノベーシ
ョン及び品質保証本部担当の大久保 孝俊 様をお招きし,「持続的成長を可能
にする不確実性(リスクと機会)のマネジメント」をテーマにご講演をいただ
きました。

今回の講演では,リスク思考の視点から,人間の本質を考察し,「個のやる気
を引き出す」マネジメントに焦点を当てながら,大久保様ご自身の経験談から
スリーエム社の企業文化まで盛りだくさんのお話しをいただくことができまし
た。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1.持続的成長を可能にする不確実性のマネジメントを定義する
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

●マネジメントとして心を動かすことが必要

大久保様ご自身の体験として,米国で開発リーダーとして製品開発を行なって
いたときの出来事。当時の開発は複数のチームで同一開発を行う競争方式。
開発の最終局面で悪い評価結果が出たが,その原因が評価部門の測定誤りによ
るものと発覚し怒りが爆発。評価部門に評価をやり直すよう怒鳴りこんだ。
それが上司の耳に入り,突然呼び出されて2週間の休暇を取るように命じられ
た。休暇を取り頭を冷やすことで,復帰する頃には冷静に判断できるようにな
っていた。

製品は休暇中に再評価され,その良さが認められて採用された。この出来事を
とおして,人は命令だけでは動かず,心を動かすことが必要だと気付き,その
後の会社人生を左右する経験となった。

●コンプライアンス違反は回数の問題ではない

過去に,売上に大きく貢献していたフッ素を用いた撥水スプレー「スコッチガ
ード」の廃止がある。当時まだ規制されていなかったが,フッ素が人体に蓄積
されるとの報告を受け,将来人体に及ぼすリスクを考え幹部判断で販売を中止
した。

事業の持続的成長のためには,コンプライアンス違反は回数の問題でなく,絶
対にあってはならない。同社にはZero Tolerance Policy(ゼロ・トレランス・
ポリシー)があり例外を許さない精神がある。一人ひとりが判断し,告発した
人が不利益にならないような保護政策が大切。

この幹部判断を受けたスコッチガードプロジェクトチームは代替素材を用いて
新撥水スプレーを製品化。瞬く間に業界を席巻して圧倒的シェアを獲得するこ
とになった。

●脳科学をベースにマネジメントを考える

ホモサピエンスの脳の特徴は,感情があること。上司から色々言われても「腑
に落ちない」という感情が入る。感情がないロボットは腑に落ちないとは言わ
ない。

ホモサピエンスの特徴は,
 1) おいしいものは独り占め。
 2) 分かち合う,協力し合う。
 3) 満たされる状況では変化を好まない。
 4) ルール違反に対する罰を与えることは快く感じる。
 5) 不公平に扱われたと感じると自分の利益を犠牲にしても相手を罰する。
 6)「笑顔」と「名前」にポジティブに反応する。
 7) 恐れと喜びの感情が,新しいことに挑戦させることを創出させる。

人の道徳的判断は理性と理論よりも,直観と感情の影響を受けている。人間の
脳科学をベースにしたマネジメントが不可欠である。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2.不確実性への挑戦:3Mの歩みから学ぶ
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●ポストイットを生んだ企業文化

上司から新規に強力な接着剤を作れと言われ開発したが,簡単に剥がれる接着
剤ができた。通常なら失敗だが,同社には“役に立つかも”という推定に基づ
いて話せる企業文化があった。

ある技術者が,讃美歌のしおりが落ち,簡単に剥がれる接着剤の利用方法に気
が付いた。技術者どうしが喋れる場がなければポストイットは誕生しなかった。

●人間は3つのタイプ(不燃性/可燃性/自燃性)に分類できる

マネジメントは可燃性の人にフォーカスする。可燃性の人には競合と戦わせる
環境を与える。そのために武器を持たせる必要がある。

同社には,製品は事業部に属するが技術は会社に属するという経営理念がある。
46項目に分類されたテクノロジープラットフォームにより技術の見える化が行
われ,技術者の連絡先を記載しており,直接連絡を取り合うことができる。
可燃性の人に積極的に技術を使わせる仕組みと場が提供されている。

人を採用するときの基準は“真摯さ(Integrity)”があること。この資質が自
燃性につながる。

●15%カルチャーとは

自主性を持った社員を育てるために,その人が会社の成長を信じるものであれ
ば,業務の15%は会社の設備を使って取り組んで良いという企業文化。

確実性の面から考えたとき,“やりたい”という人にやらせた方が良い。上司
は見て見ぬふりをする。うまくいけばプロジェクトとして会社が全面的に支援
する。

普通のリーダーは自分が正しいと信じているので,部下に色々と指示をしてし
まう。しかし,それでは部下は自分で考えてトライする機会がなくなる。
自主性を持った社員が育つには,自主性を尊重する活動をしないといけない。

可燃性の人間が育つかどうかは,マネジメントで決まってしまう。アイデアを
出すために自由にやらせる。そのためには,マネジメントの規律が大事。
自由と規律の両方がなければ持続的成長にはつながらない。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

今回ご紹介した内容はごく一部ですが,大久保様には,脳科学にまで踏み込ん
だ「個のやる気を引き出す」マネジメントについて熱く語っていただきました。
予定時間をオーバーし,大久保様ご自身もお話し足りないご様子でしたが,懇
親会にも参加いただき,会員の皆様との会話を楽しまれたようです。

アンケート結果では,ホモサピエンスの特性に基づく「心を動かすためのマネ
ジメント」がいかに大切か,自由にアイデアを創出させるには規律あるマネジ
メントに加え可燃性のある人間を活用すること,など多くの気付きを得られた
と回答がありました。

参加された皆さまには,心に響く,腑に落ちた講演になったことと思います。

なお,本講演のアンケート結果は以下のURLからご参照できます。

 <会員専用サイト(ID,PWが必要です)>
 http://www.ciaj.or.jp/qms_m/pdf/150619.pdf


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●QMSサロン報告
  「ISO/DIS 9001:2014の体系的解釈とその応用を考える」
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第16回「QMSサロン」を 7月3日に開催致しました。

QMS委員会フェロー 山本 正 様(MBA,Ph.D)をファシリテーターに迎え,
2015年秋にIS発行(12月にJIS化予定)される,ISO 9001:2015への準備として
「ISO/DIS 9001:2014の体系的解釈とその応用を考える」をテーマに意見交換
が行われました。

ISO/DIS 9001:2014のおもな改正ポイントは下記の通りです。

 1.構造及び用語(Structure and Terminology)
 2.製品及びサービス(Products and services)
 3.組織の状況(Context of the organization)
 4.リスクに基づくアプローチ(Risk-based approach)
 5.適用可能性(Applicability)
 6.文書化した情報(Documented information)
 7.組織的な知識(Organizational knowledge)
 8.外部から提供される製品及びサービス
  (Control of externally provided products and services)

簡単に説明しますと,

・序文から規格の基本構造をみますと,リスクに基づく考え方が入り,不安定,
 不確実要因への予測と対応がハイライトされました。この目的は,QMSが意図
 した結果を達成できることをより確実にするためです。

・Context(コンテキスト)は,意味ある状況のことで単に状況ではありません。
 企業がおかれている状況(context)認識の明確化をすることで,リスクに基づく
 アプローチと深く関係しています。

・リスクに基づくアプローチは,QMSの中で扱えるリスクに限定しています。
 リスク及び機会を認識し,品質方針,品質目標を起点に資源の提供までの
 計画を具体化することを求めています。
 問題を起こさないようにするのがISO 9001の基本の考え方ですが,一方,
 コンテキストが変わり,QMSが変わらなければ問題が起こる可能性があります。
 問題が起きること自体は悪いことではありません。

・“文書化した手順”から“文書化した情報”と,その範囲が拡大されました。
 「データ」⇒「情報」⇒「知識」と知識化への流れが意図されています。

・組織は,プロセスの運用に必要な知識,並びに製品及びサービスの適合を
 達成するために必要な知識を決定しなければなりません。そして,この知識を
 維持し,必要な範囲で利用できる状態にしなければなりません。


今回の改正案(ISO/DIS 9001:2014)では,下記について,規格の中で対応しよう
とする部分が見えてきます。

・QMSのパフォーマンスが上がらない,俗に言う「アウトプット問題」
・QMSの形式的な活動,すなわち「形骸化」

QMSによる3つの改善対象として,下記の3つが上げられますが,今回の改正で
「QMSの結果」に,よりスポットがあたっていることからも,「アウトプット問題」
「形骸化」を改善する意図が見えます。

(1) プロセス;
   製品&サービスの不適合への改善
(2) 製品及びサービス;
   既知の又は予想できる顧客要求事項を満たすことの改善
(3) QMSの結果;
   パフォーマンス結果/監査結果/マネジメントレビュー結果
   是正処置の結果/(成り行きでない)矛盾のない予測可能な結果


ISO 9001:2008とISO/DIS 9001:2014のQMSモデル図を比較し考察しますと,

(1) 経営者の責任(Management responsibility)から
  リーダーシップ(Leadership)への変更
  →結果責任から推進責任へと変化しています。責任はコミットメントです。
   単なる約束ではなく,人生・人格をかけた約束です。

(2) 経営資源の支援システムとしての新たな位置付け
  →資源を,製品及びサービスのPDCAサイクルの外に置いています。

QMSの中でトップマネジメントがいかにリーダーシップを発揮するかが,QMSの
有効性向上への最初の一歩です。

事業プロセスへQMSを統合しなさいということを示しています。

以上の通り,2015年改正では,
QMS構築・維持から“リスクや機会”への対応も含めたパフォーマンス評価に
力点が移り,QMSの有効性を,より意識させるものとなりました。

今回は,次期改正についてのサロンで,実践に非常に役立つ内容でした。
規格開発者は,ISO 9001を本気で使って欲しいとの思いが伝わってきました。
規格を使う側の我々企業も本気で取り組まないといけないと感じました。


次回,第17回は,2015年11月に開催予定です。

「QMSサロン」は,会員間コミュニケーションを取ったり,リレーションを築
くにも最適な場です。新たな参加者を大歓迎します。

皆様のご参加をお待ちしております。


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●ISO 9001関連の最新動向 
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当初の予定通り,ISO/FDIS 9001:2015は7月9日に発行されました。2ヶ月間の
投票期間に入り,2/3以上の賛成をもってISの発行となります。
事実上,ほぼ内容が確定したといってもよいと言えます。

当月は,QMS委員会の総会特別講演でのアンケート結果から,約半数の方が
FDISの発行を機に2015年版対応の準備を開始するとされており,ISO 9001が
どのように変わろうとしているのかを中心に報告します。


1.2015年版はどう変わるのか?

今回の改正作業は2012年6月に着手され,改訂のための設計仕様書の中では,
主なものとして以下の3点が掲げられています。

<設計仕様書の主な項目>
 1.戦略上の意図と改訂の目的:
   適合製品の提供能力に関する信頼を向上させるように規格を改訂
 2.改訂プロセスに対する要求:
   原則的に規格の目的,タイトル,適用範囲などの変更はなし
 3.設計へのインプット:
   規格はISO/IEC専門業務用指針補足指針附属書SLに従い開発
   
これは,ISO 9001が組織のQMSに効果を出せるよう要求が強化されることと,
様々なマネジメントシステム規格が制定されるなかで,共通の構造により
複数規格を適用する組織への配慮であると理解できますが,それにより,
2000年以来の大幅な変更と言われてきました。

FDISの序文を見てみると,「QMSの採用は,パフォーマンス全体を改善し,
持続可能な発展への取組みのための安定した基盤を提供するのに役立ち得る
組織の戦略上の決定」としています。

一方で,QMSの構造を画一的にしたり,文書化を規格の記述と一致させるもの
でないことを明言し,組織の自主的な取組みを促しており,設計仕様書の意
図を明確に引き継いでいます。

さらに,序文では,プロセスアプローチを最上位の概念として,その適用が
以下の4点を可能にさせるとしています。

 a)要求事項の理解,及びその一貫した充足
 b)付加価値の点からのプロセスの検討
 c)効果的なプロセスパフォーマンスの達成
 d)データ及び情報の評価に基づく,プロセスの改善

加えて,PDCAサイクルを機会の利用及び望ましくない結果の防止を目指すリ
スクに基づく考え方(Risk based thinking)に全体的な焦点を当てて取組む
ことでプロセス及びシステムを全体としてマネジメントすることができると
しています。

リスクに基づく考え方の導入は,計画段階でリスクを考慮することで未然防止
が図れたり,リスクに対する想定,対応によりQMSをプロアクティブな運営を
可能にすることを意図しています。

このことは大きな変化点であるが,現実的には,リスクへの対応はされている
場合が多いものと思われることから実態に即した変更と言えます。
いずれにしても,次期改正に対するQMSの見直しの大きな観点と言えます。

また,ISO 9001は,同時に改正されるISO 9000に規定されている品質マネジメ
ントの原則に基づいています。2015年版の原則は,「顧客重視」「リーダーシ
ップ」「人々の積極的な参加」「プロセスアプローチ」「改善」「客観的事実
に基づく意思決定」「関係性管理」の7つとなり,2005年版からはひとつ減っ
ています。

この中で,リーダーシップには,「すべての階層のリーダーは,目的及び目指
す方向を一致させ,人々が組織の品質目標の達成に積極的に参加している状況
を作り出す。」と説明しており,トップだけではなく,各階層のリーダーの責
任において,実行面の強化を図られていることが大きな変更と受け止めます。

ここでは,FDISの序文の構成から全体像をみてみましたが,新たなリーダーシ
ップの説明に従い,プロセスアプローチをPDCAとリスクに基づく考え方を駆使
して,組織がQMSを構築(再構築)し,運用して,意図した成果を得ることの
確実性を求める規格となっていることがわかります。


2.ISO 9001:2008から何がかわるのか?

組織としては,現状のISO 9001:2008からどのように変わるのかが素朴ながら
大きな問題であります。

特に,附属書SLに基づくマネジメントシステム規格の共通の様式をベースに固
有の内容を追加しているという規格の構造であることから,何がどう変わった
のかがわかりにくい状況にあります。

7月16日に日本規格協会主催で開催されたISO/FDIS 9001改訂動向説明会では,
TC176国内委員会の山田エキスパートより,2008年版からの主要な変更として
以下の10項目があるとの説明がありましたので紹介します。

<ISO 9001:2008からの変更>
 a)組織に状況に合致したマネジメントシステムの構築 (4.1,4.2,4.3)
 b)事業への組み込みの強化 (5.1,5.2)
 c)パフォーマンス改善要求の強化 (9.3,10.1)
 d)リスクへの取り組み (6.1,9.1.3)
 e)一層の顧客重視 (5.1.1,5.1.2)
 f)QMSの方針及び目標と組織の戦略との密接な関連付け (5.1,6.2)
 g)文書類に対する一層の柔軟性 (7.5)
 h)組織的な知識の獲得 (7.1.6)
 i)ヒューマンエラーへの取り組み (8.5.1)
 j)附属書SL,サービスへの適用からくる用語の変更 (全体)


3.ISO 9001:2015改訂の意図は?

組織がISO 9001:2015を理解するには,規格の改訂の意図がどこにあるかを理
解することが必要でありますが,現時点では,そのための手段や機会が十分と
は言えません。

日本規格協会では,既に開催済みの東京,福岡に引続き,ISO/FDIS 9001改訂
動向説明会を,名古屋,大阪で開催しますが,東京は9月4日に追加の設定がさ
れました。日本規格協会では,ISが発行された段階,JISが発行された段階で
も同様な説明会の開催を計画しているようです。

また,ISOでは支援文書等の対応で,5月のカンクン会議の報告として,以下の
報告がありました。

 a)ISO支援文書
   SC2WG23では各TGに分れて必要な改訂が行われたようでありますが,明確
   な予定は出されていません。
   なお,日本規格協会では,ISOで正式に改版される場合は,和訳をして
   日本語版を掲載する考えであることを表明しています。

 b)TS 9002
   SC2WG24では,TS 9002のドラフトの作成中で,8月にドラフト版を発行し,
   11月に投票を締め切り,コメント処理を行った後,年末から1月頃の発行
   の見通しとの報告がありました。
   なお,TS 9002では,WG23で作成している支援文書の内容は含まないとし
   ており,規格の要求事項の圧縮ではなく,要求事項の意図が書かれるも
   のとしています。

その他としては,3月に報告した日本規格協会からのJISの発行に併せて発行さ
れる以下の図書があります。
  
  <日本規格協会の書籍発行予定>
  ・JIS発行               :12月(予定)
  ・『要求事項の解説』発行       :12月(予定)
  ・『新旧規格の対照と解説』発行    :12月(予定)

以上より,JISの発行までは,規格の改訂の意図を得るための情報は十分とは
言えませんが,この期間は,組織のQMSの問題の洗い出しをしておくことに注
力することも組織にとっては大事なのではないでしょうか。


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●TL 9000コーナー「TL 9000 セミナー報告」
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恒例になりました「TL 9000 セミナー」を, 6月5日にクエストフォーラム日本
ハブ様とQMS委員会 TL 9000WGで共同開催致しました。

当日は,QMS委員会会員企業他18社40名の参加があり,国内の情報通信技術
業界各位に TL 9000を制定しているクエストフォーラムの概要とTL 9000 要求
事項及び測定法等について解説を行い,また,活発な質問によりご理解を頂け
たと思います。

 講師:クエストフォーラム日本ハブ会長 藤井 俊一氏
    クエストフォーラム公認訓練機関
    (株)テクノファ講師  小林 真一氏,吉崎 久博氏,内田 勲氏

 セミナー内容
    1. クエストフォーラム日本ハブの紹介
    2. TL 9000規格の基本説明
     1) TL 9000要求事項(R5.5)
     2) TL 9000測定法 (R5.0)
    3. TL 9000規格の最新動向と質疑応答
     1) 最新動向
       ISO 9001改正に対するTL 9000の対応
       TL 9000ハンドブック改訂状況
     2) 質疑応答
       4月のAPAC BPC東京会議におけるTL 9000 WSの結果を含め,
       これまでに寄せられている質問への解説。質疑応答。

今回,アンケートの結果から, TL 9000 を導入検討中の方からは説明時間が短
い,また導入済の方からは,もっと詳細説明を希望する等の要望がありました。

次回の「TL 9000セミナー」では,事前に参加希望者からの要望を聞くなど改
善予定です。なお,次回開催は, 2015年下期を予定しています。

また,今年4月に,当TL 9000WG からも講演しましたクエストフォーラム
「APAC BPC 東京会議 (国際会議)」の参加報告書を,以下の会員専用サイトに
掲載致しました。

本報告書記載の当日の講演概要が会員皆さまのご参考になればと思います。

 <会員専用サイト(ID,PWが必要です)>
 http://www.ciaj.or.jp/qms_m/pdf/15QuEST.pdf


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●知識活用型企業への道「QMSにおける知的資産運用への取り組み」
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前回は,現在の改正案(ISO/DIS 9001:2014)でハイライトされている“リスク
に基づく考え方”について考えてみました。リスクや機会を特定するには,原
因が結果に先行することを前提としますが,実際には何らかの結果がでて初め
て真の原因を知るという逆の因果関係もあることをお話しました。

もちろんこの因果の逆転現象は認知上のことですが,さまざまな作用が関連す
るシステムではその相互作用が複雑なため,先に原因を確定することは難しい
面があるということを指摘しました。その理由として,リスクや機会を導くあ
る種の不確実さが刻々と変化するからです。

それゆえリスク対応表を作成し終わりというわけにはいかず,状況の変化に伴
い対応を変えなければなりません。リスクや機会に対し形式的で安易な対応は
QMSの形骸化をさらに促進させる可能性があるため注意が必要です。

もちろんビジネス環境が激しく変化する時代では,リスクや機会をあらかじめ
想定し何らかの処置を事前に行うことは重要ですが,予想には“不確実さ”
(uncertainty)が必ず含まれるため,それへの配慮が必要です。

またシステムには,諸活動の微妙なバラつきと曖昧さ(fuzzy)により,常に
“不安定さ”(volatility)を持っています。そのためシステムとして不安定さ
から生じるボラティリティを可能な限りコントロールすることにより,組織の
意図した結果を確実に達成することがQMSの目的のひとつだと言えます。

その上システムの安定さが向上しますと,因果関係が安定し将来への予測精度
が向上しますので,再発防止および予防的処置が効果的に効くようになり同時
に生産性も高まることが期待できます。

一方その逆にQMSが安定していない状況で予防的処置を試みても,システムの
不安定さのため効果がでないだけでなく,更なる不安定要素を増やすことにも
なります。それゆえリスクと機会への対応はQMSの状況に照らし,慎重さが求
められるでしょう。

このようにシステムの有効性を阻害する要素として“不安定さ”と“不確実さ”
がありますが,その内容は異なるものなので識別し対応することが望まれます。

これまで品質管理では,統計など科学的手法を使い合理的に不安定さであるボ
ラティリティをコントロールしてきたわけです。一方,設計・開発や対人サー
ビスなどにみる人的資源が大きく影響する活動では,因果関係は不安定で曖昧
です。

また同時に不確実さを本質的に多く含んでいますので,私たちは例えばコミュ
ニケーションの場の提供,必要な情報の共有,および教育・訓練など,さまざ
まな支援活動をとおし人的資源が関係する不安定さや不確実さに働きかけてき
たわけです。

このようにQMSは不安定さと不確実さを縮減するために,さまざまな工夫を重
ねてきたのですが,その基盤として必要なことは“知識”ではないでしょうか。
そこで今回は,改正案にある“組織的な知識”(7.1.6)について簡単に考えて
みたいと思います。

皆さんご存じのように“組織的な知識”への主な要求事項は,以下のとおりで
す。

1)「組織は,プロセスの運用に必要な知識,並びに製品及びサービスの適合
 を達成するために必要な知識を決定しなければならない。」

2)「この知識を維持し,必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。」

3)「変化するニーズ及び傾向に取り組む場合,組織は,現在の知識を考慮し,
 必要な追加の知識を習得する方法又はそれにアクセスする方法を決定しなけ
 ればならない。」

と示されています。

さて具体的な考察に入る前に,まずは業務に必要な能力である“力量”
(competence)について確認してみましょう。

これまでの“力量”は,「知識及び技能を適用するための実証された能力」
(ISO 9001:2008)と定義されていました。一方,改正案では「意図した結果を
達成するために,知識(3.53)及び技能を適用する能力」と変更されました。

今回,力量の目的を“意図した結果を達成するために”と限定し適用範囲がよ
り明確になりました。また“意図した結果”とは,大局的に見ればQMSの品質
方針,または各プロセスの品質目標にあたるものと理解できます。

次に,これまであった“実証された能力”が削除されています。今回は不確実
さが大きい“リスクや機会”とともに“製品及びサービス”と対人サービスの
部分にも焦点を当てているため,実証された能力だけを根拠に力量があるとは
言えなくなったかと見えます。

知識創造や対人サービスなど暗黙的な知識が重要な役割を担う場合,実証でき
ない能力の方が大きな意味を持つことがあります。この暗黙知への配慮は,
“組織的な知識”の要求事項の注記2 a)内部資源「組織内の各分野の専門家
の文書化していない知識及び経験を得る。」とわざわざ記載しているところか
らも推定できます。

これまで暗黙知の重要性とそれへの配慮の必要性について,このコーナーでも
指摘してきましたが,今回“実証された能力”が削除されたことにより,
より実際的な定義になったと見えます。

すでに現場におられる皆さんはお分かりかと思いますが,実際のところ“実証
できる力量”は人材のもつ力量のほんの一部分です。

真の力量とは,例えば深い洞察力,物事を的確に理解するリテラシー,多様で
豊富な知識量,さらには真摯な態度,誠実さ,努力を惜しまない姿勢,自発性
など,能力証明書では説明できないものを含んだものです。それゆえ,学歴,
業務経験年数,さまざまな資格証明だけで力量を判断するのは無理がありまし
た。

次に話を進め,“必要な力量”を修得させるためにQMSは何をすればよいでし
ょうか。

そのヒントは教育・訓練の要求事項で示されていますが,ISO 9001:2008 巻末
の解説によれば,「“education”は啓発,能力開発的な意味が強く通常は学
校教育,専門教育,体系的な教育を意味する。」,また,「“training”は,
確立している知識・スキルを“付与する”,“教える”というような意味であ
る」と説明されています。

本来,個々人が持っている知識はその本人の関心事,興味の範囲など極めて個
人的価値観に基づき形成されます。また,個人の持つ学習する能力や知識への
満足度に影響を受けるため,個々人の知識の質および量のバラつきは大きなも
のだと推察できます。

知識活用型企業では,知識のバラつきを放置しますと業務バラつきがより拡大
しますから,組織としては体系的に教育・訓練を行う必要性が出てきます。そ
の体系的教育の基盤となるのが今回の話題である“組織的な知識”になります。

一般的に知識に関連する研究は多様で,“知的資源にまつわる研究”,“暗黙
知に関わる研究”,“知識循環に関わる研究”,“学習に関わる研究”および
“無形資産の価値経営に関わる研究”など,さまざまな視点と価値観により長
期にわたり議論され研究されてきました。

そこで今回は,“組織的な知識”とは何かを知識循環の視点も入れ考えてみた
いと思います。

ご存じだと思いますが,知識循環に関わる著名な研究は,“暗黙知と形式知と
の知識スパイラル”として有名なSECIモデルがあります。 (野中郁次郎,竹内
弘高(2004)『知識創造企業』梅宮勝博訳)

この話題は何度かご紹介しましたが,まず①さまざまな暗黙知と暗黙知とが影
響しあい,新たな暗黙知を生じさせる“共同化”(socialization),②暗黙知
が文書など何らかの形で形式知化される“表出化”(externalization),
③文書など形式知化された情報を組合せ新たな形式知を生み出す形式知の
“連結化”(combination),そして④形式知から個人の知識である暗黙知へと
再び戻る“内面化”(internalization)という暗黙知と形式知のスパイラルを
示しています。

この知識スパイラルも使い“組織的な知識”を考えてみますが,その前にデー
タ,情報,および知識の概念が混同してつかわれる場合が多いので,まずはそ
れを確認しておきましょう。

改正案の用語の定義では,“データ”は「オブジェクト(3.36)に関する事実」
(3.49),“情報”は「意味あるデータ」(3.50),また“知識”を「正当な信条
であり,真実である確実性の高い,利用可能な一群の情報」(3.53)として説明
されています。ここではその解釈を利用することにします。

まず,“データ”は何らかの事実と思われることを記号化した信号であり,意
味はもちません。次に“情報”とはその信号を読み込み,何らかの意味を見出
したものです。さらに“知識”とは,情報が意味することをその人から見て正
しいと信じられるものとなります。

それゆえ知識とは個人の価値観や経験に基づくため,同じ情報でもある人にと
っては真実として知識となり,他の人では情報のままということがあり得ます。

それゆえ人々の行動はまずはデータ信号を受信し,その信号の意味を解釈し情
報化するところから始まります。そして人々の行動には,情報に基づき行動す
る他律的な行動パターンと,自分が情報を正いと納得し知識化した後に引き起
こされる自律的な行動パターンに分けられます。

情報に基づく行動は他律的であるがゆえに情報が変われば行動もコロコロと変
わります。他方,知識に基づく行動は自律的であるがゆえに,情報が変化した
だけでは変わりません。また探究心が自律的に働きますので継続的に成長する
傾向にあります。

さて,改正案では“文書化した情報”だけでなく“組織的な知識”をも規定し
ているところを見ると情報と知識の双方を意識しており妥当な方向に向かって
いるかと思われます。つまり,形骸化やパフォーマンスが上がらないという指
摘がある中,“文書化した情報”だけでは対応できないため“組織的な知識”
を加えてきたと見えます。

さて話を戻して,組織的な知識への要求にある「プロセスの運用に必要な知識」
について,まず考えてみましょう。

プロセス運用には多くの人々が参加するため,そこには関係者全員が理解でき
る情報が必要です。それゆえ個人的な経験や知見は,まず手順類,基準・標準,
チェックシートおよびノウハウとして形式知化され文書類として表出化します。

しかしこの段階では,“文書化した情報”にとどまります。文書化できない経
験・技能および個人の内面にある知識は直接的に明示化できないので取り残さ
れますから,これをも必要な知識としてQMSに組み込まなければなりません。

さて次は,「製品及びサービスの適合を達成するために必要な知識」です。こ
こでの疑問は,何に対し“適合”すべきなのかということです。

まず,絶対に適合しなければならない対象は,コンプライアンスである規制・
法令要求事項でしょう。この知識なくして事業継続はできませんので企業にと
って第一義に必要な知識だと思います。

これにはさまざまな専門分野がありますから,専門の部署が対象となる規制・
法令要求を確定し,それを理解し現場が分かるように具体的な情報や知識に転
換しなければなりません。一方,規制・法令要求では,それ自体が正いかどう
かの議論はなく,どのように遵守し適合するかの知識が求められます。

次に適合すべき要求は,当然ですが本業である製品及びサービスに関する要求
です。顧客満足を得るためには顧客要求事項および企業の個性を生み出す組織
自身の要求を満たすことが不可欠ですから,これらの要求内容を情報化し必要
に応じ関係者の知識に転換させる工夫が必要になります。

余談ですが,これまでQMSの中では,例えば“文書化した手順”や“記録”な
どとその情報がもつ主な役割で呼んでいました。しかし“手順”と呼ぶと製造
工程などでは違和感はありませんが,手順化できない部分が多い設計・開発や
対人サービス分野ではとても違和感がありました。

また,業務内容によっては手順化できない事柄や手順化してはいけない事柄が
あるものですが,これを無理やり手順にしてしまうことにより形骸化のひとつ
の要因になったと見ています。

幸いにして今回の改正案では“文書化した手順”や“記録”は“文書化した情
報”という枠組みの要素となりましたので,妥当な対応と見えます。

さて次の要求事項としては,「この知識を維持し,必要な範囲で利用できる状
態にしなければならない」です。“文書化した情報”はそれだけでは知識には
なりませんから組織的な知識を維持するためには,まずは文書化した情報を個
々人の経験や暗黙知に照らし理解し納得してもらう必要があります。その上で,
文書管理で必要な情報を利用可能な状態に持っていくことになります。

この課題は次の要求事項である「変化するニーズ及び傾向に取り組む場合,組
織は,現在の知識を考慮し,必要な追加の知識を習得する方法又はそれにアク
セスする方法を決定しなければならない。」に展開されます。この要求内容は,
予想以上に広範囲な課題を含んでいます。

まず,“変化するニーズ及び傾向”をどのようにして捉えるのかです。今回の
改正案では “組織及びその状況の理解”(4.1)にて変化を捉えることを要求し
ていますので,これと連携して考える必要があります。

その上で問題になるのは,企業内の“現在の知識”とは何かという疑問です。
文書化した情報は知識のほんの一部分であり暗黙知を含め現在の知識なるもの
とは何かを理解しなければなりません。これは極めて困難な課題です。

これを限定的に考えれば,組織活動の目的に照らし文書化した情報を基に関係
者が共有している知識とでも言わざるをえませんが,その現在の知識に対し新
たに求められている知識を,新たな情報の収集と教育・訓練をとおし不足して
いる知識を補うことになるかと思います。

さらに悩まし要求は,「アクセスする方法を決定する」にあります。これまで
QMSに必要な文書類は何らかの方法でデータベース化され,検索可能でアクセ
スできる状況にあるかと思います。さらに情報セキュリティに配慮しアクセス
権を設定しているかと思います。しかし本質的な疑問はそれが“現在の知識”
に該当するかどうかです。

前述したように実際の“現在の知識”とは,知識活用型企業では文書化された
知識だけではなく個人の内面にある暗黙知が重要な役割を担っています。

しかも個人が内面に持っている暗黙知に直接アクセスすることはできませんか
ら,だれもが利用可能な知識とは限りません。個々人の暗黙知が持つ“現在の
知識”にいかにアクセスするかを考えることはとても重大な案件です。

この課題は,一般的にはモチベーションやエナーブリングの話題に展開されま
すが,ここでは改正案の7箇条“支援”の“資源”(7.1)の中に一部展開されて
います。

現実として“必要な知識へのアクセス方法”とは,文書化した情報へのアクセ
ス方法が中心となりますが,個々人の暗黙知を組織として共有するためには教
育・訓練を含め対面的交流の場によりアクセスする方法が必要となります。

一般的に文書化された情報への“アクセス方法”に目が向きますが,知識活用
型企業では個人の暗黙知をいかに組織として活用するかが重要課題であり,
今後も工夫が求められるでしょう。

さて今回は,新たに加わった“組織的な知識”について簡単に考察してみまし
た。QMSにおける力量とは,「意図した結果を達成するために,知識(3.53)及
び技能を適用する能力」と示されているように,いつ使うか分からない知識で
はなく組織の意図を達成するために必要な力量とその知識に限定されてしまい
ました。

しかし,いつ使うか分からない知識を蓄えてこそ組織の多様性が増し,環境変
化への対応能力も増加します。またイノベーティブな知識創造が生まれる可能
性があるので,この規定の範囲を広げて考えてもよいかもしれません。知識活
用型企業ではQMSにある“文書化された情報”と“現在の知識”を自覚しつつ
も,組織的な知識をさらに広範囲に広げ活用する工夫が必要になるでしょう。

さて,紙面の関係でそろそろ終わりにしたいと思いますが,最後に文書管理に
関連し情報開示に関わる要点をいくつかご紹介したいと思います。

まず,1)“重要性”(materiality)による区分です。
意図した結果を達成するために必要な文書類の重要性を明確にすることです。
この重要性区分は利用者が組織の価値観を理解するのにも役立ちます。

次が2)“簡潔性”(conciseness)です。簡潔性とは単純性(simplicity)ではあ
りません。
多々ある文書類の相互結合性(connectivity)を体系化し文書類の関係ロジック
を明確にすることです。他の文書と結合性がない孤立した文書は,体系的にア
クセスできないだけでなくシステムとして意味を生じないため結果的に組織の
知識として活用できないからです。

次に3)“信頼性”(reliability)を位置付けたいと思います。品質保証部門の
方ですと信頼性が最も重要なのではないかと疑問を持たれるかもしれませんが,
要求自体が変化する状況では完璧な信頼性を保つことは難しいからです。
ゆえに要求が変化するたびに信頼性の適切性を保つ活動が求められます。これ
を放置すると文書類の信頼性を一挙に低下させますので組織的な知識としては
使えなくなります。

最後に,4)“完全性”(completeness)です。重箱の隅をつつくような監査に対
応するために意味が分からないものまで文書化した場合,重要性,簡潔性,信
頼性に混乱を生じさせます。このように網羅性を重視すると,重要性がない文
書までも文書体系に入り込みますので混乱状態になります。完全性の程度は他
の要求とのバランスで決めることが必要です。

さて,今回は改正案の中で気になった“組織的な知識”に簡単に触れてみまし
た。たった数行の要求ですが実際に実現しようとすると,いくつもの課題が見
えてきたような気がします。

これまでの“文書化した手順”や“記録”は“文書化した情報”に包含され,
さらに文書化できない暗黙知を包含するために,教育・訓練の場をとおし“組
織的な知識”に組み込むことで,システムとして情報と知識を組織的に利用す
るかという本質的な問題に迫ることになりました。そしてその課題の中心に,
相変わらず暗黙知と形式知の知識循環があることを強く認識した次第です。

さてだいぶ話が長くなってしまいましたが,皆さんの参考になる部分があるこ
とを願い,今回のお話を閉じたいと思います。


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●編集後記
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関東甲信越地方では今月19日の梅雨明け宣言と同時に猛烈に暑い日が続いてい
ます。こうなると季語が夏の飲み物,ビールが欠かせません。

テレビや新聞で取り上げられるようになったクラフトビール,ここ最近はスー
パーやコンビニの冷蔵庫にも多様なビールが陳列されたり,特設コーナーが設
けられるようになりました。みなさんもお気付きかと思います。

国内のビール消費量は全体で見ればここ10年間で約30%も減少する中,クラフ
トビールはその味わいの種類の多さと個性から消費量が拡大してきています。
94年の酒税法改正により全国で地ビールブームが起きましたが,醸造技術や品
質管理ノウハウが未熟なまま,地域興し的に立ち上げた一部の醸造所がいたこ
とも要因となって,どれを飲んでも同じ味,美味しくないとの評判から地ビー
ルブームはやがて沈静化していきました。

しかし,地道に美味しいビールを追究し,品質管理を徹底した醸造家の拘りと
熱意がやがて若者を中心にSNSで広がり,小規模ながらも手造りの美味しいビ
ールが評判となり,「クラフトビール」という呼び方で急成長を遂げています。
多くの醸造所が造るビールの個性豊かな香りと味わいは,どれ一つとして同じ
ものはなく,多様化するニーズにうまく応えています。クラフトビールを専門
に扱うおしゃれなビアバーも増えてきました。

昨年9月,大手ビール会社とクラフトビール会社が業務提携を発表したのは記
憶に新しいかと思います。大手のビールはどれを飲んでも同じ味とまで言われ
ていましたが,ここ最近はクラフトビールの手造り感と個性を研究し,独自の
ビールを矢継ぎ早に市場投入しています。

クラフトビールがブームに終わらず,文化として定着することを望んでいる方
も多いのではないでしょうか。

さて,今回のメルマガでもご紹介したとおり,日本規格協会が7月16日に東京
会場で主催したISO/FDIS 9001改訂動向説明会はキャンセル待ちとなるほど好
評を呼び,東京会場は9月4日に追加開催となるほど関心の高さを示しています。
DISまでは様子見だった組織もFDISが発行されて現実味を帯びてきたように思
えます。

今回の改正を逐条解釈論だけの一過性のブームだけに終わらせないためにも,
改正の意図と本質を今一度確認されてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただき,ありがとうございました。


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──「QMSを経営に活かしたいあなたに贈る」──

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* 発行:一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会
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