一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)では、2021年度第1四半期(4-6月)の通信機械生産・輸出入の概況をまとめました。
I.概況
2021年度4月~6月の日本経済は、実質GDP成長率(1次速報値:8月16日)が年率換算で1.3%増と2四半期ぶりに増加に転じました。個人消費が、外出自粛の影響で飲食などのサービス消費は振るわない一方で、消費意欲が回復しつつあるために2四半期ぶりで増加しました。企業の設備投資も、新型コロナ禍による影響から回復しつつある米国や中国などに向けて輸出が好調な大企業製造業を中心に、堅調な企業業績を背景にして増加しています。
この中で2021年度4月~6月の通信機器市場では、ボタン電話や構内用電子交換機などのビジネス関連機器は、新型コロナ禍の影響による中小企業などの業績悪化や、半導体不足の影響を受けて受注活動や設置工事が停滞したことから設備投資が低調となっており、GIGAスクール構想など光ケーブル網の全国整備に合わせた有線ネットワーク関連の設備投資も一段落しています。一方で、新型コロナ禍の影響によって低迷した携帯電話は、第5世代移動通信システム(5G)対応スマートフォンの新製品発売や、3G機種からの買替販売促進によって需要が回復しています。さらに、5G通信インフラ構築のための基地局投資は拡大を継続しており、5Gグローバル展開による基地局輸出も開始され増加しています。
(1)国内市場動向
4月~6月の国内市場金額(=国内生産金額-輸出金額+輸入金額:部品除く)は7,550億円、前年同期比は26.1%増と増加しました。5G通信への移行が進み、携帯電話や基地局それぞれで生産や輸入が増加したことが要因です。
(2)国内生産動向
4月~6月の国内生産金額は1,143億円、前年同期比は7.9%増と増加しました。5G通信向け基地局の需要が本格化していることなどから、国内生産は3四半期連続で増加しました。
(3)輸出動向
4月~6月の輸出総額は826億円で、前年同期比は34.7%増と増加しました。アジアや欧米に向けた輸出が好調で、特に中国で前年同期に大きく生産が落ち込んだスマートフォン生産用部品の需要が回復し、2018年度第4四半期の水準まで戻しています。
(4)輸入動向
4月~6月の輸入総額は7,376億円で、前年同期比26.9%増と増加しました。国内需要が回復しつつあるため、国内メーカー製や海外メーカー製のスマートフォンのほか、基地局やデータ通信機器の需要が堅調なことから3四半期連続で増加しました。
II.国内市場動向(生産動態統計と貿易統計からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表1-1)
機種別の4月~6月の実績は以下の通りです。端末機器が大きく伸びており、ネットワーク関連機器も好調を継続していることにより、3四半期連続で増加しました。
①端末機器:4,974億円(前年同期比 33.6%増)
②ネットワーク関連機器:2,576億円(前年同期比 13.7%増)
なお、「国内市場規模=国内生産金額-輸出金額+輸入金額」として、生産動態統計と貿易統計を活用して国内市場規模を算出しています(海外メーカーの輸入額も含みます)。
図表1-1:国内市場(機種別、四半期別) | |
III.国内生産動向(経済産業省「生産動態統計調査」からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表2-1)
機種別の4月~6月の実績は以下の通りです。
①有線端末機器
84億円(前年同期比17.5%減)。うち電話機4億円(同4.4%減)、ボタン電話装置33億円(同3.5%増)、インターホン47億円(同28.3%減)。ボタン電話装置は、前年同期で新型コロナ禍による生産減少があったことから前年同期比では増加となりました。中小企業向けが新型コロナ禍による設備投資抑制などから減少しましたが、電気通信事業者向けは機種更新需要により増加しました。また部品調達難によって生産が縮小しています。
②移動体端末機器
347億円(前年同期比7.2%減)。うち携帯電話251億円(同5.4%増)。携帯電話は3G機種からの買替促進施策などにより増加しましたが、業務用無線などを含むその他の陸上移動通信装置や海上・航空移動通信装置は前年同期のリプレイスの反動で減少したため、全体では減少となりました。
③有線ネットワーク関連機器
339億円(前年同期比3.8%増)。うち局用交換機36億円(同47.5%増)、構内用交換機5億円(同31.5%減)、デジタル伝送装置159億円(同8.6%増)、その他の搬送装置125億円(同7.4%減)。構内用交換機は、中小企業向けでは新型コロナ禍による業績影響から設備更新の先送りや設備導入の見送りのほか、大企業向けでは働き方改革や新コミュニケーションスタイルに向けた更新計画の再検討もあって需要が減少しました。また半導体不足影響を受けて受注に影響が出ています。局用交換機は、公衆交換電話網からIP網に移行する際に必要となる収容装置や変換装置の需要が継続しています。デジタル伝送装置は、前年同期で新型コロナ禍による生産減少があったことから前年同期比では増加となりましたが、テレワークによるネットワーク量の増大や、GIGA光ケーブル網の全国整備に合わせた設備投資が一段落して需要は減少しています。
④無線ネットワーク関連機器
233億円(前年同期比86.2%増)。うち固定通信装置39億円(同22.1%減)、基地局通信装置194億円(同158.2%増)。固定通信装置は、地上系の輸出が増えていますが、衛星系の官庁や民間向けが大きく減少していることから国内生産は減少しました。基地局通信装置は、5G向け通信インフラ構築に向けて、国内生産は大幅増加しています。
⑤ネットワーク接続機器
71億円(前年同期比3.9%増)。官庁や通信事業者向けのルーターが一段落しましたが、民間向けのルーター、LANスイッチとも新型コロナ禍の影響による投資抑制から回復しつつあり、工事延伸も再開されたことなどから需要が増加し、国内生産は増加しました。
⑥有線部品(有線機器用リレー、中継器用など)
69億円(前年同期比8.8%増)。アジアなどに輸出しているスマートフォン生産用部品が回復しつつあるため、国内生産は2四半期連続で増加しました。
図表2-1:生産総額(機種別、四半期別) | |
IV.輸出動向(財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表3-1)
機種別の4月~6月の実績は以下の通りです。
①電話機及び端末機器55億円(前年同期比13.0%減)
内訳は、携帯電話43億円(同21.9%減)、コードレスホン0.4億円(同44.4%減)、その他 12億円(同55.1%増)となりました。米国向けで巣ごもり需要の増加に伴ってその他に含まれる簡易無線などが増加しました。
②ネットワーク関連機器313億円(同44.0%増)
内訳は、基地局46億円(同1,898.9%増)、データ通信機器259億円(同23.8%増)、その他ネットワーク関連機器8億円(同42.4%増)となりました。アジアや欧米の景気回復で需要が拡大し輸出が増加しました。5G通信のグローバル展開により、米国向けの基地局が大幅に増加しました。
③部品(有線系・無線系の合計)457億円(同37.6%増)
中国で前年同期に大きく生産が落ち込んだスマートフォン生産用部品の需要が回復しつつあるため、前年同期比で大幅増となりました。
(2)地域別の詳細動向(参照:図表3-2)
地域別の4月~6月の実績は、アジア向けが545億円(前年同期比53.0%増)、うち中国向けは273億円(同192.9%増)となりました。北米向けが189億円(同9.2%増)、うち米国は186億円(同8.6%増)。欧州向けは76億円(同21.4%増)、うちEUは58億円(同24.9%増)となりました。中国向けのスマートフォン生産用部品や、米国向けの基地局の輸出が大きく増加しています。米国向けの携帯電話も堅調に推移しています66。
(3)地域別構成比
1位 | アジア | 66% | (前年同期比 +7.9%) |
---|---|---|---|
2位 | 北米 | 22.9% | (同 -5.4%) |
3位 | 欧州 | 9.2% | (同 -1.0%) |
その他地域 | 2.0% | (同 -1.5%) |
図表3-1 輸出動向(機種別、四半期別) |
図表3-2 輸出動向(地域別、四半期別) |
Ⅴ.輸入動向(財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表4-1)
機種別の4月~6月の実績は以下の通りです。
①電話機及び端末機器4,598億円(前年同期比38.9%増)
内訳は、携帯電話4,575億円(同39.3%増)、コードレスホン10億円(同46.0%増)、その他12億円(同27.6%減)となりました。国内需要の回復によって、携帯電話やコードレスホンなどのパーソナル機器の需要が拡大し、輸入が増加しました。
②ネットワーク関連機器2,246億円(同14.4%増)
内訳は、基地局303億円(同54.6%増)、データ通信機器1,888億円(同9.7%増)、その他ネットワーク関連機器55億円(同20.0%増)となりました。データ通信機器のうち、スイッチング機器及びルーティング機器759億円(同18.9%減)、その他のデータ通信機器(伝送装置、通信装置、変復調装置等)1,129億円(43.7%増)となりました。5G通信インフラ関連の整備などに向けて、基地局などの輸入が大きく増加しています。
③部品(有線機器と無線機器用部品の合計)533億円(同1.3%減)
(2)地域別の詳細動向(参照:図表4-2)
地域別の4月~6月の実績では、アジアからが6,985億円(前年同期比27.9%増)、うち中国は5,674億円(同39.5%増)。北米からは112億円(同19.3%減)、うち米国は103億円(同22.4%減)。欧州からは191億円(同51.3%増)、うちEUは184億円(同51.2%増)となりました。アジアからは携帯電話のほか、基地局、その他のデータ通信機器も増加し、欧州からは基地局が大きく増加しており、その他のデータ通信機器、部品も増加しています。
(3)地域別構成比
1位 | アジア | 94.7% | (前年同期比 +0.8%) |
---|---|---|---|
2位 | 北米 | 1.5% | (同 -0.9%) |
3位 | 欧州 | 2.6% | (同 +0.4%) |
その他地域 | 1.2% | (同 -0.3%) |
図表4-1 輸入動向(機種別、四半期別) |
図表4-2 輸入動向(地域別、四半期別) |
VI.受注・出荷動向(CIAJ受注・出荷統計より)
(1)2021年度4月~6月の実績
CIAJ会員の国内メーカーによる受注出荷の4月~6月総額は3,333億円で、前年同期比3.5%増となりました。このうち、国内出荷は2,540億円の同比6.6%減、輸出は793億円の同比58.2%増となりました。国内出荷は、在宅需要に支えられた有線端末機器が増加しましたが、携帯基地局を除くネットワーク関連機器が減少して、前年同期比で減少となりました。一方で輸出が、新型コロナ禍による影響から回復しつつある米国や中国などに向けての需要が大きく拡大したことから、受注出荷総額では前年同期比で増加しました。
※CIAJ受注・出荷統計=CIAJ会員の国内メーカーの受注・出荷額
(=国内出荷額+輸出額 =国内生産額+海外生産した輸入額)
(2)機種別動向
国内出荷と輸出を合わせた機種別の4月~6月の実績は以下の通りです。
①有線端末機器 1,092億円(前年比18.0%増)
新型コロナ禍の影響から回復しつつある中で、在宅需要を含めて購買意欲が高まり、コードレスホン、インターホン、パーソナルファクシミリ(複合機を含む)などのパーソナル関連機器の需要が拡大しています。特に、パーソナルファクシミリの輸出は巣ごもり需要により大幅に増加しました。また、ビジネスファクシミリ(複合機を含む)は、国内で新型コロナ禍の再拡大でテレワークが増えてノンハード需要が減少した反面、ハードの需要は増加しました。輸出も中国や欧米での需要が大幅に回復して増加しました。
②移動体端末機器 958億円(同比10.5%減)
携帯電話は、5G対応スマートフォンの新製品発売や、3G機種からの買替販売促進によって、出荷台数は一昨年並みに回復しましたが、5G端末の低価格化や買替販売に向けた廉価端末の拡大が進み、出荷額は減少しました。
③有線ネットワーク関連機器 428億円(同比20.8%減)
ボタン電話や構内用電子交換機などのビジネス機器は、主要顧客の設備更新の先送りや設備導入の見送りによって需要が減少しました。半導体不足影響が受注に影響し、更新サイクルの長期化も想定されています。輸出は出荷台数が回復していますが、出荷額は減少しました。デジタル伝送装置やPON・MCは、設備投資が一段落して減少しています。
④無線ネットワーク関連機器 687億円(同比23.3%増)
固定通信装置は、衛星系の官庁や民間向けが大きく減少していることから需要は減少しました。基地局通信装置は、5G向け通信インフラ構築に向けて、輸入も含めた国内需要が増加しており、さらにOpen-RAN仕様に基づいた5Gグローバル展開が拡大しており、輸出が大幅増加しています。
⑤その他ネットワーク関連機器 73億円(同比7.1%増)
ネットワークシステムの強化のための官庁や通信事業者向けのルーターが一段落しましたが、民間向けのルーターやLANスイッチとも新型コロナ禍の影響による投資抑制から回復傾向にあり、需要が増加しました。ただし新型コロナ禍の再拡大の影響や、半導体不足による供給減少の影響が想定されています。
⑥通信機器用部品 96億円(同57.5%減)
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