一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)では、2020年度第1四半期(4-6月)の通信機械生産・輸出入の概況をまとめました。
I.概況
2020年4-6月の日本経済は、実質GDPが▲27.8%(1次速報値、年率換算)と3四半期連続のマイナス成長となっています。新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言などで経済活動が停滞したことから、個人消費や企業の設備投資が低迷し、内需は3四半期連続の減少となりました。また世界的な感染拡大によりインバウンド需要も激減して、輸出も2四半期連続で減少しています。
この中で通信機器市場は、個人消費や設備投資の低迷もあって、コンシューマ関連機器やビジネス関連機器の需要は減少しましたが、ネットワーク関連機器の需要は好調となりました。第5世代移動通信システム(5G)のサービス利活用などによるデータトラフィックの増加に向けて、バックボーンとなるデジタル伝送機器の需要が継続して伸びています。また、携帯電話インフラ設備の需要が上向きの中で、テレワーク需要などによって通信事業者やデータセンター向けの設備増強もあり需要は増加しました。
(1)国内市場動向
4月~6月の国内市場金額(=国内生産金額-輸出金額+輸入金額)は5,982億円となり、前年同期比では6.0%増と4四半期ぶりに増加しました。ネットワーク関連機器の需要が増加したため、国内生産金額や輸入金額が増加しました。
(2)国内生産動向
4月~6月の国内生産金額は1,060億円となり、前年同期比では4.8%増となり、2四半期連続で増加しました。コンシューマ関連の電話機や携帯電話、ビジネス関連のボタン電話や構内用交換機が減少していますが、インフラ関連のデジタル伝送装置や基地局通信装置が前年同期比で好調なため、生産全体では増加しました。
(3)輸出動向
4月~6月の輸出総額は613億円で、前年同期比21.0%減と大幅減が継続しています。中国などアジアでのスマートフォン需要の低迷を背景に現地でのスマートフォン生産用部品の需要が減少、さらに新型コロナ禍の影響による生産停止も発生したことから生産用部品の輸出が大きく減少しました。景気低迷による設備投資も減少し、輸出総額では7四半期連続で減少しました。
(4)輸入動向
4月~6月の輸入総額は5,805億円となり、前年同期比2.1%増と4四半期ぶりのプラスとなりました。有線ネットワーク関連の国内需要が好調なため、データ通信機器の「スイッチング及びルーティング機器」と「その他のデータ通信機器(伝送装置、通信装置、変復調装置等)」が増えたことから、輸入総額は増加しました。
II.国内市場動向(生産動態統計と貿易統計からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表1-1)
機種別の4月~6月の実績は以下の通りです。
生産動態統計と貿易統計から「国内市場規模=国内生産金額-輸出金額+輸入金額」として、国内市場規模を算出しています(海外メーカーの輸入額も含みます)。
①端末機器:3,717億円(前年同期比 1.5%減)
②ネットワーク関連機器:2,265億円(前年同期比 21.1%増)
図表1-1:国内市場(機種別、四半期別) | |
III.国内生産動向(経済産業省「生産動態統計調査」からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表2-1)
機種別の4月~6月の実績は以下の通りです。
①有線端末機器
102億円(前年同期比11.4%減)。うち電話機4億円(同7.4%減)、ボタン電話装置31億円(同3.7%減)、インターホン66億円(同14.9%減)と減少しました。パーソナル・家庭向けは、新型コロナ禍の影響から購入機会の損失や新築工事の遅れによる需要の低迷が見られました。ボタン電話でも、PBXからの移行で大容量機種の需要が増加しましたが、新型コロナ禍の影響による設備投資の減少もあって、国内生産は減少傾向が続いています。
②移動体端末機器
375億円(前年同期比6.5%増)。うち携帯電話238億円(同16.5%減)となりました。携帯電話では、スマートフォンの買い替えが堅調なことからスマートフォン台数は増加しましたが、全体の台数や金額は販売店での購入機会の損失などから減少しました。携帯電話以外のその他では、業務用無線や海上・航空無線関連のリプレイスなどにより大幅に増加しました。
③有線ネットワーク関連機器
326億円(前年同期比18.9%増)。うち局用交換機24億円(同48.0%増)、構内用交換機7億円(同49.0%減)、デジタル伝送装置146億円(同67.5%増)、その他の搬送装置135億円(同6.6%減)となりました。デジタル伝送装置は、データトラフィック増大を見込んだ有線系ネットワーク設備の増強、さらに光回線の未整備地域への投資増のため、国内生産の増加が継続しました。また輸出も世界的なトラフィックの逼迫から増加しています。構内用交換機は、官庁向けのリプレイス需要がありましたが、企業業績が悪化したことから設備投資の削減や国内拠点の統廃合による需要低迷もあって国内生産は減少しました。
④無線ネットワーク関連機器
125億円(前年同期比3.7%増)。うち固定通信装置50億円(同13.6%減)、基地局通信装置75億円(同19.5%増)。官庁向けの防災無線基地局や衛星系通信装置、民間向けのマイクロ波通信装置は需要が減少したため、固定通信装置の国内生産は減少しました。基地局通信装置は前年同期比では増加しましたが、国内生産は横ばい傾向が続いています。
⑤ネットワーク接続機器
69億円(前年同期比15.1%減)。新型コロナ禍を背景にしたテレワーク需要で、通信事業者やデータセンター向けの設備が拡充されていますが、企業の設備投資が抑制されているためにネットワーク接続機器全体の需要が減少し、国内生産は減少しました。
⑥有線部品(有線機器用リレー、中継器用など)
63億円(前年同期比7.9%減)。車載関連などの国内生産向けの需要や、輸出されるスマートフォンなどの海外生産向けの輸出が減少しているため、生産減少が継続しています。
図表2-1:生産総額(機種別、四半期別) | |
IV.輸出動向(財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表3-1)
機種別の4月~6月実績は以下の通りです。(ファクシミリは2018年1月から廃止)
①電話機及び端末機器63億円(前年同期比21.0%減)
内訳は、携帯電話55億円(同6.6%減)、コードレスホン0.7億円(同18.3%増)、その他8億円(同34.4%増)となりました。携帯電話は米国向けが減少する一方で、アジア向けが増加しました。
②ネットワーク関連機器218億円(同26.7%減)
内訳は、基地局2億円(同68.6%減)、データ通信機器209億円(同24.6%減)、その他ネットワーク関連機器6億円(同50.2%減)となりました。新型コロナ禍の影響を受けた世界経済低迷による需要減で、輸出が低迷しています。
③部品(有線系・無線系の合計)332億円(同19.8%減)
新型コロナ禍の影響によるスマートフォンなどの世界的な消費低迷や、米中貿易摩擦の深刻化などを背景とした設備投資需要の悪化により、生産用部品の輸出が減少しています。
図表3-1:輸出動向(機種別、四半期別) |
(2)地域別の詳細動向(参照:図表3-2)
地域別の4月~6月実績は、アジア向けが355億円(前年同期比21.2%減)、うち中国向けは93億円(同35.3%減)。北米向けが173億円(同9.1%減)、うち米国は171億円(同9.2%減)。欧州向けは62億円(同39.8%減)、うちEUは55億円(同39.9%減)となりました。
新型コロナ禍の影響で、アジアや欧米などの主要輸出国への輸出が大きく減少しました。
(3)地域別構成比
1位 | アジア | 58.0% | (前年同期比 -0.2%) |
---|---|---|---|
2位 | 北米 | 28.3% | (同 +1.7%) |
3位 | 欧州 | 10.2% | (同 -3.1%) |
その他地域 | 3.5% | (同 +1.6%) |
図表3-2:輸出動向(地域別、四半期別) |
Ⅴ.輸入動向(財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)機種別の詳細動向(参照:図表4-1)
機種別の4月~6月実績は以下の通りです。
①電話機及び端末機器3,304億円(前年同期比2.0%減)
内訳は、携帯電話3,279億円(同2.0%減)、コードレスホン7億円(同39.7%減)、その他17億円(同13.9%増)となりました。携帯電話では、販売店での購入機会損失などによって需要が減少しました。その他では、リモート会議システムの需要増が含まれています。
②ネットワーク関連機器1,962億円(同16.0%増)
内訳は、基地局196億円(同122.1%増)、データ通信機器1,721億円(同10.6%増)、その他ネットワーク関連機器46億円(同2.2%減)となりました。バックボーンとなるデジタル伝送機器の需要が伸びており、携帯電話インフラ設備の需要も上向きとなることから、これらの輸入が増加しました。
③部品(有線機器と無線機器用部品の合計)540億円(同13.2%増)
図表4-1:輸入動向(機種別、四半期別) |
(2)地域別の詳細動向(参照:図表4-2)
地域別の4月~6月実績では、アジアからが5,452億円(前年同期比6.6%増)、うち中国は4,062億円(同8.4%増)。北米からは138億円(同24.4%減)、うち米国は133億円(同22.7%減)。欧州からは126億円(同17.9%増)、うちEUは124億円(同19.8%増)。
中国と欧州からの輸入が増加した背景として、部品と基地局の輸入が大きく増えています。
(3)地域別構成比
1位 | アジア | 93.9% | (前年同期比 +1.6%) |
---|---|---|---|
2位 | 北米 | 2.2% | (同 +0.3%) |
3位 | 欧州 | 2.4% | (同 -0.9%) |
その他地域 | 1.5% | (同 -1.0%) |
図表4-2:輸入動向(地域別、年度別) |
VI.受注・出荷動向(CIAJ自主統計「受注・出荷統計」より)
(1)2020年度第1四半期の実績
4月~6月のCIAJ自主統計受注・出荷総額は3,221億円で、前年同期比12.3%減となりました。このうち、国内出荷は2,720億円の同比7.2%減、輸出が501億円の同比32.5%減となりました。
※自主統計「受注・出荷」=CIAJ会員の国内メーカーの受注・出荷額
(=国内出荷額(国内生産+海外生産)+輸出額 =国内生産額+海外生産した輸入額)
(2)機種別動向
機種別の4月~6月実績は以下の通りです。
①有線端末機器 925億円(前年同期比26.9%減)
コンシューマ関連機器やビジネス関連機器の国内需要が減少し、特に、海外景気の影響を受けやすいパーソナルファクシミリ(複合機を含む)やビジネスファクシミリ(複合機を含む)の輸出が大きく減少しました。
②移動体端末機器 1,070億円(同比12.8%減)
携帯電話は、買い替えサイクルの長期化などによる需要減少に加え、新型コロナ禍の影響によって消費が低迷したことにより国内需要が減少しました。その他の移動端末機器(業務用無線など)では輸出が堅調です。
③有線ネットワーク関連機器 540億円(同比16.5%増)
デジタル伝送装置やPON・メディアコンバータなど有線ネットワーク関連は国内需要が大きく増加しており、またデジタル伝送装置の輸出も堅調です。
④無線ネットワーク関連機器 557億円(同比1.4%増)
官庁向けの防災無線基地局や衛星系通信装置、民間向けのマイクロ波通信装置の需要が減少したため、固定通信装置の国内需要は減少しました。また衛星系通信装置の輸出が伸びています。基地局通信装置では、通信事業者向けの需要が大幅に増加しています。
⑤その他ネットワーク関連機器 68億円(同比31.3%減)
新型コロナ禍の影響で、企業の設備投資が低迷し、需要は減少しました。
⑥通信機器用部品 61億円(同14.1%減)
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