一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)では、2018年度通期(4-3月)の通信機械生産・輸出入の概況をまとめました。
2018年度の日本経済は、2017年度の景気好調が継続して個人消費や企業の設備投資の内需が急増したのち、その反動や天候不順・自然災害が発生した影響でマイナスに転じましたが、年度後半から生産設備への省力化投資やオリンピック・パラリンピック関連需要が堅調で、名目賃金増加などの期待もあって個人消費が持ち直し、内需はプラス成長が続きました。しかし、中国などの新興国経済の低迷を背景にして輸出が大きく減少し、内需のプラス規模では支えられない状況で、さらに米中貿易摩擦や英国EU離脱問題などの混乱による世界経済の不透明感から内需も落ち込んだために、2018年度の実質GDP成長率はプラス0.6%ですが、2017年度のプラス1.9%からは大きく鈍化し、景気は下振れとなっています。
この中で通信機器市場は、買い替えサイクルの長期化によって端末機器の需要が減少しましたが、第5世代移動通信システム(5G)などによるデータトラフィックの急増が期待されていることから通信ネットワーク設備の需要が高まりつつあります。輸出では、世界経済減速によりスマートフォン生産用部品の落ち込みが大きく、輸出額全体は大幅に減少しました。輸入では、部品が国内生産の低迷から落ち込み、また携帯電話が日系メーカーの海外生産分と海外メーカー生産分ともに振るわず、輸入額全体も減少しました。
I.国内生産動向(生産動態統計と貿易統計からCIAJにて纏め【新規掲載】)
(1)2018年度通期の実績
生産動態統計と貿易統計から「国内市場規模=国内生産金額-輸出金額+輸入金額」として、国内市場規模を算出しました(海外メーカーの輸入額も含みます)。
4月~3月の国内市場金額は2兆8,697億円となり、前年度比では3.3%減と2年ぶりに減少しました。
(2)機種別動向(参照:図表1-1)
機種別の4月~3月の実績は以下の通りです。
①端末機器:20,656億円(前年度比5.3%減)
②ネットワーク関連機器: 8,041億円(前年度比2.2%増)
図表1-1:国内市場(機種別、年度別) | |
図表1-2:国内市場(機種別、四半期別) | |
II.国内生産動向(経済産業省「生産動態統計調査」からCIAJにて纏め)
(1)2018年度通期の実績
4月~3月の国内生産金額は4,302億円となり、前年度比では16.9%減となりました。有線端末機器や有線ネットワーク関連機器が増加に転じていますが、移動体関連の端末や基地局が技術変革期で低迷していることと、海外景気が減速しているために輸出向けの生産も減少していることから、国内生産額は同比で減少しました。
(2)機種別動向(参照:図表2-1)
機種別の4月~3月の実績は以下の通りです。
①有線端末機器
536億円(前年度比0.7%増)。うち電話機35億円(同11.4%増)、ボタン電話装置164億円(同6.3%減)、インターホン323億円(同3.6%増)、ファクシミリ13億円(-)となりました。パーソナル・家庭向けではセキュリティに対応した機種が増加傾向にあります。ボタン電話は、国内では構内用交換機の代替としての増加傾向がありますが、リプレイス需要が長期化しているために横ばい傾向は変わらず、輸出減の影響で減少しました。
②移動体端末機器
1,179億円(前年度比33.1%減)。うち携帯電話(公衆用PHSを含む)682億円(同37.7%減)となりました。携帯電話は、機能・性能が充足している上に、端末価格が上昇し、買い替えサイクルの長期化を招いています。さらに端末価格と通信料金の完全分離プラン導入を見据えた買い控えでさらに低迷し、大幅に減少しました 。
③有線ネットワーク関連機器
1,238億円(前年度比1.1%増)。うち局用交換機88億円(同16.3%減)、構内用交換機73億円(同4.4%増)、デジタル伝送装置432億円(同11.1%増)、その他の搬送装置582億円(同2.7%減)となりました。構内用交換機は、国内では携帯電話の内線化や、オフィスサイズ小規模化による装置数や回線数減少、ボタン電話との棲み分けの変化により減少傾向にありますが、一方で輸出が好調でした。デジタル伝送装置は、データトラフィック増大を見込んでバックボーンなどの通信ネットワーク設備への投資が増えています。
④無線ネットワーク関連機器
730億円(前年度比28.3%減)。うち固定通信装置332億円(同23.0%減)、基地局通信装置398億円(同32.3%減)。官庁向けの防災/MCA無線の基地局や、民間向けマイクロ波通信装置は増加しましたが、携帯電話向け基地局などが低迷しているため、無線ネットワーク関連機器全体では同比で減少しました。
⑤ネットワーク接続機器
325億円(前年度比5.7%減)。クラウドやIoTに向けた既存装置のリプレイスや、セキュリティ強化のIT投資で需要は伸びていますが、景気減速による設備投資の見直しなどによる減少で、ネットワーク接続機器全体では同比で減少しました。
⑥有線部品(有線機器用リレー、中継器用など)
295億円(前年度比1.0%増)。中国経済減速により、海外でのスマートフォン生産用部品の需要が減少したために、ほぼ前年度並みとなりました。
図表2-1:生産総額(機種別、年度別) | |
図表2-2:生産総額(機種別、四半期別) | |
III.輸出動向(財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)2018年度通期の実績
4月~3月の輸出総額は3,974億円で、前年度比28.4%減と大幅に減少しました。世界経済の減速によって中国などアジアで生産されるスマートフォンが減少しており、その生産部品の輸出減が大きく影響しています。
データ通信機器も、海外の景気低迷による輸出減が響き、同比で3年連続で減少しました。電話機及び端末機器では、携帯電話が米国向けで継続して増加しました。基地局は、輸出額が小さいですが、米国やEU向けが増加し、アジア向けが大きく減少しました。
(2)機種別動向(参照:図表3-1)
機種別の4月~3月実績は以下の通りです。(ファクシミリは2018年1月から廃止)
①電話機及び端末機器298億円(前年度比67.0%増)
内訳は、携帯電話271億円(同80.1%増)、コードレスホン3.0億円(同20.7%減)、その他24億円(同0.9%減)
②ネットワーク関連機器1,307億円(同13.1%減)
内訳は、基地局45億円(同37.3%減)、データ通信機器1,227億円(同11.1%減)、その他ネットワーク関連機器35億円(同33.8%減)
③部品(有線系・無線系の合計)2,370億円(同38.7%減)
図表3-1:輸出動向(機種別、年度別) |
図表3-2:輸出動向(機種別、四半期別) |
(3)地域別実績(参照:図表3-3)
地域別の4月~3月実績では、アジア向けが2,612億円(前年度比38.5%減)、うち中国向けは1,223億円(同44.3%減)。北米向けが833億円(同15.6%増)、うち米国は822億円(同15.8%増)。欧州向けは385億円(同8.0%減)、うちEUは336億円(同8.0%減)。
中国向け部品が部品輸出全体に占める割合は44.7%とさらに減少していることから、中国向け輸出は同比44.3%減と大きく減少しました。2017年度第2四半期から継続して増加している米国向けの携帯電話は248億円(同104%増)となりました。
(4)地域別構成比
1位 | アジア | 65.7% | (前年構成比 -10.8%) |
---|---|---|---|
2位 | 北米 | 21.0% | (同 +8.0%) |
3位 | 欧州 | 9.7% | (同 +2.2%) |
その他地域 | 3.6% | (同 +0.6%) |
図表3-3:輸出動向(地域別、年度別) |
図表3-4:輸出動向(地域別、四半期別) |
IV.輸入動向(財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)2018年度通期の実績
4月~3月の輸入総額は2兆8,518億円となり、内需の落ち込みによる需要減から前年度比では3.5%減となりました。携帯電話は、2年縛りの谷の年でもあり、料金プラン変更を見据えて買い替え需要が低迷したことから、スマートフォンの輸入が減少しました。データ通信機器では「その他のデータ通信機器(伝送装置、通信装置、変復調装置等)」が第4四半期で前年同期比40.5%増となり、バックボーンなどの通信ネットワーク設備の輸入が増えています。
(2)機種別動向(参照:図表4-1)
機種別の4月~3月実績は以下の通りです。(ファクシミリは2018年1月から廃止)
①電話機及び端末機器1兆9,239億円(前年度比2.2%減)
内訳は、携帯電話1兆9,120億円(同2.2%減)、コードレスホン51億円(同13.3%減)、その他67億円(同3.1%増)。
②ネットワーク関連機器7,055億円(同4.0%増)
内訳は、基地局411億円(同2.3%減)、データ通信機器6,395億円(同3.9%増)、その他ネットワーク関連機器249億円(同19.3%増)。
③部品(有線機器と無線機器用部品の合計)2,224億円(同28.6%減)
図表4-1:輸入動向(機種別、年度別) |
図表4-2:輸入動向(機種別、四半期別) |
(3)地域別実績(参照:図表4-3)
地域別の4月~3月実績では、アジアからが2兆6,867億円(同4.4%減)、うち中国は2兆1,935億円(同3.3%減)。北米からは688億円(同9.4%減)、うち米国は641億円(同12.9%減)。欧州からは540億円(同50.3%増)、うちEUは530億円(同52.7%増)。
欧州からは、基地局(同42%増)、データ通信機器(同17%増)と通信ネットワーク設備関連が増加しました。
(4)地域別構成比
1位 | アジア | 94.2% | (前年構成比 +0.8%) |
---|---|---|---|
2位 | 北米 | 2.4% | (同 -0.7%) |
3位 | 欧州 | 1.9% | (同 -0.1%) |
その他地域 | 1.5% | (同 +0.1%) |
図表4-3:輸入動向(地域別、年度別) |
図表4-4:輸入動向(地域別、四半期別) |
V.受注・出荷動向(CIAJ自主統計「受注・出荷統計」より)
(1)2018年度通期の実績
4月~3月のCIAJ自主統計受注・出荷総額は1兆5,775億円で、前年度比11.7%減となりました。このうち、国内出荷は1兆2,452億円の同比9.7%減、輸出が3,323億円の同比18.4%減となりました。
※自主統計「受注・出荷」=CIAJ会員の国内メーカーの受注・出荷額
(=国内出荷額(国内生産+海外生産)+輸出額 =国内生産額+海外生産した輸入額)
(2)機種別動向
機種別の4月~3月実績は以下の通りです。
①有線端末機器 5,518億円(前年度比8.6%減)
電話機は、国内需要が堅調なコードレスホン、その他の電話機が増加しました。また海外景気の影響を受けやすいパーソナルファクシミリ(複合機を含む)やビジネスファクシミリ(複合機を含む)の輸出が大幅に減少しました。
②移動体端末機器 5,438億円(同比13.1%減)
携帯電話は需要が落ち込んでいますが、その他の移動端末機器(業務用/MCA無線端末など)が約2倍の増加となりました。
③有線ネットワーク関連機器 1,975億円(同比1.6%増)
デジタル伝送装置、変復調装置、メディアコンバータなど有線ネットワーク関連は、輸出は低迷していますが、国内需要が増加傾向にあるため、同比で増加しました。
④無線ネットワーク関連機器 2,089億円(同比26.5%減)
基地局通信装置は、官庁向けの防災/MCA無線基地局が増加していますが、移動通信システムの変革期にあるために携帯電話基地局が大幅に減少しており、同比で減少しました。
⑤その他ネットワーク関連機器 412億円(同比9.5%増)
データセンター向けなどでLANスイッチが好調を継続しているほか、その他の装置や無線LAN関連も増加しており、同比で増加しました。
⑥通信機器用部品 342億円(同16.1%減)
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