一般社団法人 情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の市場調査部では、この度、2016年度通期(4-3月) の通信機器生産・輸出入の概況をまとめました。
2016年度の日本経済は穏やかな回復基調が続いています。年度前半に為替レートが円高方向に動いたことや中国を始めとする新興国などの景気減速の動きが年度後半から薄れてきたことにより、携帯電話や衣料品を中心に個人消費が伸びるとともに、輸出でもアジアを中心としたスマートフォンなどの需要回復によって電子部品・デバイスが持ち直しています。ただし設備投資は年度前半の円高背景による企業の慎重姿勢が継続している状況です。
その中で通信機器市場では、景気減速によって鈍化しつつも伸びているグローバル市場に向けての海外生産・出荷がさらに拡大したことや、年度前半の端末購入ガイドラインなどの影響で国内メーカーの携帯電話が振るわなかったことから国内での生産は減少しましたが、景気回復とともに改善傾向にあります。
輸出は、年度前半の円高背景によって全機種で振るわず、新興国での携帯電話生産向け部品も減少したことにより4年振りに前年度比マイナスとなりましたが、年度後半から新興国向けの生産部品が持ち直してきています。輸入は、設備投資の慎重姿勢や年度前半の端末購入ガイドラインなどによる影響から全体的に減少し7年ぶりに前年度比マイナスとなりましたが、後半から携帯電話やデータ通信機器が増加しつつあります。
I.国内生産動向 (経済産業省「生産動態統計調査」からCIAJにて纏め)
(1)2016年度の実績
国内生産金額は、6,889億円(前年度比7.0%減)と前年度比マイナスとなりましたが、景気回復傾向にあることから5年ぶりに1桁の減少と改善傾向となりました。移動体端末機器と電話応用装置を除く機種すべてが前年度比でマイナスとなりました。
(2)機種別動向
機種別の実績は以下の通りです。
①有線端末機器
633億円(前年度比0.9%増)。うち電話機33億円(同7.9%減)、ボタン電話装置260億円(同6.7%増)、インターホン327億円(同1.4%減)、ファクシミリ14億円(同21.0%減)となりました。ボタン電話が更新需要に支えられ、単価低下をカバーして増加しました。
②移動体端末機器
2,814億円(前年度比15.9%増)。うち携帯電話は1,494億円(同20.4%減)、公衆用PHS端末は11億円(同58.8%減)となりました。携帯電話は海外生産の拡大や端末購入ガイドラインの影響により減少しましたが、一方で、MCAなど業務用無線の2015年度減少分が通年の需要(約700~800億円)に上乗せされたことから、その他の陸上移動通信装置が1,167億円(同187.9%増)となり、移動体端末機器全体では増加となりました。
③有線ネットワーク関連機器
1,444億円(前年度比18.4%減)。うち交換機359億円(同26.9%減)、搬送装置1,086億円(同15.2%減)となりました。交換機のうち、局用交換機がIP網へのマイグレーションから88億円(55.2%減)と2年連続で50%超の減少となりました。搬送装置は、海外生産シフトがさらに進んだことからデジタル伝送装置が462億円(同9.6%減)となり、全体で大幅な減少となりました。
④無線ネットワーク関連機器
1,389億円(前年度比28.8%減)。うち固定通信装置421億円(同27.4%減)、基地局通信装置968億円(同29.5%減)。基地局は、高速化に対応した3.5GHz帯の携帯インフラ装置の需要増がありましたが、輸入機器が増加した反面、国内生産は減少しました。
⑤ネットワーク接続機器
343億円(前年度比5.6%減)。有線ネットワーク関連機器と同様に国内需要が一巡し、国内生産は同比で大幅に減少しました。
⑥有線部品(有線機器用リレー、中継器用など)
266億円(前年度比1.7%減)。年度前半に低調だった中国での携帯電話生産向け部品は、後半から回復しつつありますが、7年ぶりに前年度をわずかに下回りました。
図表1-1:生産総額(機種別) 図表はクリックすると拡大表示されます |
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出所:経済産業省「生産動態統計調査」 (注) 1.「*」は秘匿(生産動態統計で秘匿。好評数値なし。) 2.2014年1月統計より「変復調装置」と「その他の搬送装置」は統合し「その他搬送装置・付属装置(変復調装置を含む)」となった。 |
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図表1-2:生産総額(機種別、四半期別) 図表はクリックすると拡大表示されます |
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出所:経済産業省「生産動態統計調査」 (注) 1.「*」は秘匿(生産動態統計で秘匿。好評数値なし。) 2.2014年1月統計より「変復調装置」と「その他の搬送装置」は統合し「その他搬送装置・付属装置(変復調装置を含む)」となった。 |
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II.輸出動向 (財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)2016年度の実績
輸出総額は4,643億円(前年度比17.6%減)と4年ぶりに同比で減少しました。電話機及び端末機器は、携帯電話が2014年度から大幅な減少が続いており、同比で減少となりました。ネットワーク関連機器は、基地局が同比でほぼ横ばいとなりましたが、データ通信機器などすべての機種が年度前半の円高影響を受け、同比で減少となりました。また部品も、新興国での景気減速により携帯電話生産が低調となって4年ぶりに同比で減少しましたが、アジアでの携帯電話(特にスマートフォン)需要の回復によって持ち直しつつあります。
(2)機種別動向
機種別の実績は以下の通りです。
①電話機及び端末機器42億円(前年度比21.8%減)
内訳は、携帯電話15億円(同37.2%減)、ファクシミリ2億円(同46.0%減)、コードレスホン2億円(同15.4%減)、その他23億円(同3.8%減)
②ネットワーク関連機器1,589億円(同12.4%減)
内訳は、基地局124億円(同1.1%減)、データ通信機器1,415億円(同13.5%減)、その他ネットワーク関連機器50億円(同5.4%減)
③部品(有線系・無線系の合計)3,011億円(同20.1%減)
図表2-1:輸出動向(機種別) 図表はクリックすると拡大表示されます |
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出所:財政相「貿易統計」 (注)*1:「貿易統計」の部品は2007年度以降、有線系・無線系の区分廃止。 |
図表2-2:輸出動向(機種別、四半期別) 図表はクリックすると拡大表示されます |
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出所:財政相「貿易統計」 |
(3)地域別実績
アジア向けが3,471億円(前年度比18.0%減)、うち中国向けは2,020億円(同29.7%減)。北米向けが647億円(同19.1%減)、うち米国は635億円(同19.5%減)。欧州375億円(同4.3%減)、うちEU 337億円(同0.5%減)。2015年度に部品輸出の70.5%を占めていた中国向け部品が60.3%となり、その減少分が中国以外のアジアにシフトしています。また、欧州向けの部品輸出も増加傾向にあります。
(4)地域別構成比
1位 | アジア | 74.7% | (前年構成比 -0.4%) |
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2位 | 北米 | 13.9% | (同 -0.3%) |
3位 | 欧州 | 8.1% | (同 +1.2%) |
その他地域 | 3.3% | (同 -0.5%) |
図表3-1:輸出動向(地域別) 図表はクリックすると拡大表示されます | |
出所:財政相「貿易統計」 |
図表3-2:輸出動向(地域別、四半期別) 図表はクリックすると拡大表示されます | |
出所:財政相「貿易統計」 |
III.輸入動向 (財務省「貿易統計」からCIAJにて纏め)
(1)2016年度の実績
輸入総額は2兆6,321億円(前年度比3.4%減)となり、7年ぶりに同比で減少となりました。輸入全体の64%を占める携帯電話において、端末購入ガイドラインなどの影響から統計品目として新設された2007年度以降で初めて減少に転じましたが、年度後半から冬春モデルの新製品出荷が好調で新年度に向けた買い替え需要もあり増加しつつあります。基地局は、高速化に対応した3.5GHz帯の携帯インフラ装置の需要増に合わせた輸入が増加しました。
(2)機種別動向
機種別の実績は以下の通りです。
①電話機及び端末機器1兆7,048億円(前年度比3.4%減)
内訳は、携帯電話1兆6,872億円(同3.3%減)、ファクシミリ54億円(同24.3%増)、コードレスホン52億円(同13.4%減)、その他70億円(同19.8%減)。
②ネットワーク関連機器6,233億円(同3.8%減)
内訳は、基地局339億円(同127.8%増)、データ通信機器5,715億円(同6.2%減)、その他ネットワーク関連機器178億円(同25.3%減)。
③部品(有線機器と無線機器用部品の合計)3,040億円(同2.8%減)
図表4-1:輸入動向(機種別) 図表はクリックすると拡大表示されます |
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出所:財政相「貿易統計」 |
図表4-2:輸入動向(機種別、四半期別) 図表はクリックすると拡大表示されます |
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出所:財政相「貿易統計」 |
(3)地域別実績
アジアからが2兆4,807億円(同3.1%減)、うち中国は2兆1,251億円(同4.5%減)。北米からは727億円(同12.5%減)、うち米国697億円(同11.9%減)。欧州からは357億円(同7.9%減)、うちEU 345億円(同9.0%減)。
(4)地域別構成比
1位 | アジア | 94.2% | (前年構成比 +0.3%) |
---|---|---|---|
2位 | 北米 | 2.8% | (同 -0.2%) |
3位 | 欧州 | 1.4% | (同 ±0%) |
その他地域 | 1.6% | (同 ±0%) |
図表5-1:輸入動向(地域別) 図表はクリックすると拡大表示されます |
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出所:財政相「貿易統計」 |
図表5-2:輸入動向(地域別、四半期別) 図表はクリックすると拡大表示されます |
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出所:財政相「貿易統計」 |
IV.受注・出荷動向(CIAJ自主統計「受注・出荷統計」より)
(1)2016年度の実績
2016年度CIAJ自主統計受注・出荷総額は、1兆8,444億円の前年度比7.4%減となった。このうち、国内出荷は、1兆4,731億円の前年度比8.8%減、輸出は、3,714億円の前年度比1.1%減となった。
(2)機種別動向
国内出荷の機種別実績は、以下の通りです。
①有線端末機器 3,486億円(前年度比4.1%減)
メタル電話のマイグレーションなどにより、電気通信事業者向けのVoIP-GWが前年を上回りました。また、パーソナルファクシミリ複合機が、ビジネス用途でも活用されて前年よりも大きく増加しました。
②移動体端末機器 5,948億円(同15.9%減)
携帯電話は、年度末にかけてスマートフォンの冬春モデル出荷が堅調で、新年度の買い替えキャンペーンも好調ですが、年度前半の端末購入ガイドラインの影響から回復できず、前年を下回りました。
③有線ネットワーク関連機器 1,478億円(同14.1%減)
その他の交換機や、メディアコンバータが前年を上回りました。
④無線ネットワーク関連機器 3,116億円(同3.8%増)
衛星系通信装置は、衛星打ち上げ計画が順調に遂行され、前年より増加しました。基地局は、インフラ投資が低調な中で高速化に対応した3.5GHz帯の携帯インフラ装置の需要増があり、ほぼ前年度並みとなりました。
⑤その他ネットワーク関連機器 398億円(同0.1%減)
ルーター、LANスイッチとも前年を上回りました。
⑥通信機器用部品 305億円(同6.5%減)
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